更新日:2008/09/04
日 時: 2008年9月4日(木)
開催場所: 在ケニア日本大使館(ケニア、ナイロビ)・多目的ホール
場所が変更になりました→日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター
共催機関:ナイロビ大学アフリカ研究所(Institute of African Studies, University of Nairobi)、
日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター、京都大学アフリカ地域研究資料センター
牧畜ワークショップ
「アフリカ牧畜社会の持続可能な発展に向けて:
牧畜研究と開発実践を接合するための新 たな可能性を探る」
概要:
本ワークショップは、牧畜社会の開発をめぐって国際社会の注目を集めているケニアに おいて、日本におけるアフリカ牧畜研究の蓄積と国際的な牧畜研究の動向との接合を図りながら、牧畜民を対象とした開発実践に携わる人々と研究者との対話を通して、牧畜社会における持続可能な開発実践を提案することを目的とする。
アフリカの牧畜社会の多くは1960 年代に、国家の独立過程で政治的・経済的に周辺化され、また1970 年代以降には、国際機関を中心とした大規模な開発援助計画の影響をうけて、急速に変容している。しかしながら、牧畜社会を対象とした開発=発展計画の多くは、皮肉なことに、環境破壊や貧富の差の増大、資源をめぐるコンフリクトの激化、近代的な火器の蔓延、地域住民の重武装化や放牧地の戦場化といったように、破滅的な負の影響をおよぼしてきた。一方、市場経済化や高度情報化、多くの開発援助プロジェクトへの参与によって、自らがおかれている現状を「客観」的にとらえる機会を得た牧畜社会は、貧困・経済格差の拡大や武力紛争によるインセキュリティの問題、政策の意思決定、資源や教育・公共サービスへのアクセス権からの疎外といった問題を、政府・国際機関やマスコミをつうじて国内外に訴え始めている。
こうした動きに呼応するように、近年、「牧畜政策枠組みイニシアティブ(Pastoral PolicyFramework Initiative)」が、国連・人道的脅威に関する調整事務局(UN-OCHA:United NationOffice for the Coordination of Humanitarian Affairs)、アフリカ連合・動物資源局(AU-IBAR:African Union Inter-African Bureau for Animal Resources)、アフリカ連合・地域経済および農業局(AU-DREA : African Union Department of Rural Economy andAgriculture)の連携のもとに、2007 年に開始された。これは、アフリカ牧畜社会の持続的な経済発展につながるような実質ある行動を開始することを目的としており、ケニアのイシオロ(2007 年7 月)とナイロビ(2008 年4 月)で国際会議を開催している。
アフリカ牧畜社会を対象とした日本における従来の研究は、生態的・経済的資源へのアクセスとその配分、在来の知識・技術と生計戦略、資源の管理・利用にかかわる諸制度、相互扶助を重視した社会・経済システム、臨機応変に災害に対処する姿勢といったように、人びとの生活の成立基盤を解明してきた。また、自文化への自尊心と誇りに満ちた象徴表現や病気などの災因への対処などの文化的・社会的な実践に関する研究もおこなわれている。そして、こうした蓄積にもとづいて、従来の開発計画が失敗してきた理由は、以下のように指摘されている。すなわち、従来の開発計画は、当該地域の牧畜民が自然環境に対して柔軟に適応しているという理解をもたず、また、この人びとの文化的・社会的な価値や実践に対して十分な配慮を欠き、開発において経済的・技術的な側面だけを重視してきた。これは、短絡的でありバイアスのかかった開発(biased development)であるということができる。
本ワークショップでは、牧畜社会における長期にわたるフィールドワークをとおして発掘されてきたローカルな諸実践に関する人類学的な研究成果を取り上げて、それらをより包括的で実効的な開発政策に反映させるため、研究者と開発実践に携わる人々との対話を促進する。そして、牧畜民が現在直面している問題を同定し、それに対する具体的で実効性のある解決策を考えつつ、持続可能な発展のあり方を構築することを目指す。