更新日:2012/06/06
発表題目: ケニアにおける水資源・森林資源管理の取り組み
日時: 2011年9月3日
場所:JSPSナイロビ研究連絡センター書庫 兼セミナー室
演者:西川 絢子 さん (世界銀行/環境省)
出席者:研究者、大学院生、在ナイロビ日本人ほか 約30名
ケニアにおける水資源・森林資源利用の現状と経済に与える影響などを、西川さんのかかわられたプロジェクトや視察時の観察などをとおして概観しつつ、世界銀行による環境・天然資源管理の取組と課題が紹介された。
ケニア国土のうち可耕地は17%、森林(植林を除く)は2%に過ぎない。降雨量は人口一人当たりにすれば、アフリカ平均の1割をすこし上回る程度だという。人口の増加にかかわらず、消費する燃料の7割は生物資源に依存し、電気は6%、そのうち約6割が水力発電によっている。いっぽう、エル・ニーニョやラ・ニーニャ、気温上昇など気候変動による年間のGDPロスは2%であるという。こうした数字からも、水資源・森林資源がこの国において重要な課題であることは歴然としている。
世界銀行はこの課題に取り組むにあたって、「上からの」アプローチとしてはたとえば森林管轄セクターの再編、「下からの」アプローチとしては各地への貯水設備の整備や灌漑、水力発電設備の整備などをおこなっている。以上はハード面であるが、現場のソフト面では、各地域コミュニティの参加、および生活向上をともなう活動の推進をすすめてきた。また、資源利用者のアソシエーションの組織などの取り組み、そして地域資源管理のガバナンスを従来の行政区分ではなく自然生態の境界にもとづいた区分にしていくなどの取り組みもすすめてきたという。
講演の終盤では、環境省から世界銀行に出向した西川さんがその経験を振り返って、日本の官庁組織と世界銀行との組織文化(working culture)のちがいについてお話された。それぞれの組織文化の強みや弱点、開発に果たす役割についての考えかた、働く側のキャリア形成の視点からみた戦略などについても、個人的な意見を興味深く聞くことが出来た。
ご来聴の方々は学生、大使館員、実務者の方々などおよそ30名。会場がいっぱいになった。最後の世界銀行での西川さんの経験談については、とくに国際開発機関に就職希望のある学生は熱心に耳を傾けていた。
私自身は近年、森林資源など自然資源を中央政府が集権的に管理するあり方から住民主体で管理する、あるいは住民組織や地方行政、NGOなどの関係者(stakeholders)が恊働して管理するあり方へ、という2000年代の制度枠組の移行に各地域の住民がどう対応してきたのかという点に興味があり、ウガンダで調査をしたこともある。しかし一方で、こうした制度をデザインする側の取り組みについても現場を経験した方から詳しく知る必要があると常々思っていたので、今回のセミナーはたいへんためになった。
(白石 壮一郎)